新型コロナウイルスの感染拡大を受け、7都府県を対象に初めて「緊急事態宣言」が発出されてから7日で1年。しかし「第4波」とも呼ばれる感染拡大も懸念され、先は見通せないままだ。昨春、記者の取材に世情を嘆いた飲食店主は、いま何を思うのか――。
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この記事に登場する店主は1年前の4月4日、「この春、都心の歓楽街からにぎわいが消えた。新型コロナウイルスの感染拡大が続き、自治体のトップが次々と夜間営業の飲食店への出入り自粛を要請」という書き出しから始まる「こんな寂しい新橋初めて…」という朝日新聞デジタルの記事に登場。取材に、人がいない様子をある印象的な言葉で語っていた。
6日午後1時過ぎ、東京・新橋。ちゃんこ料理店「井筒」の調理場で、店主の野村誠一郎さん(54)が仕込みにいそしんでいた。
直径30センチほどの鍋に3羽分の鶏ガラを入れ、3時間煮込む。できあがったスープはおよそ20人分。店内は40席ほど。歓迎会真っ盛りの時期と考えると明らかに足りないが、黙々と作業にあたっていた。
「しょうがないよね。ずっとこんな感じだから」
父親を手伝い、高校生の頃から板場に立った。1980年代後半から始まったバブル景気のころだ。毎日午後3時には、飲食店に向かう酒屋のトラックが道路脇を埋め尽くす。客の流れは途切れず、「どれだけ高くてもうまい料理を」と注文された。1万円のチップをもらったこともある。
その後、世はうつろい、客足が遠のくときもあった。だが1年前、コロナ禍に見舞われたときは、それまでの比ではなかった。人が歩く姿はなく、聞こえるのはカラスの鳴き声ぐらい。「ゴーストタウンみたいだった」
昨年4月4日、東京都で初めて1日あたりの新規感染者数が100人を超えた。翌5日の朝日新聞東京本社版で、野村さんは新橋の様子を「別の国に来たみたい」と語る。その2日後、東京都などで緊急事態宣言が発出。翌月に解除され、落ち着いたように見えた。だが夏には「第2波」が押し寄せる。
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル